「大気の安定・不安定って何?」~天気予報でよく聞く言葉の意味をわかりやすく解説~

Gold Trivia

私たちの周りの空気は、常に動いています。

樹木の葉が揺れる風、髪の毛を乱すそよ風、これらは私たちが日常的に感じる空気の動きです。

髪の毛を乱すそよ風のイメージ

しかし、これらの横方向の動きだけが大気の全てではありません

実は、私たちの頭上で起こっている上昇流や下降流といった縦の動きが天気において非常に重要な役割を果たしています

この記事では、その上昇流や下降流がどのようにして発生し、私たちの生活や環境にどのような影響を与えているのかを詳しく探っていきます。 

大気の安定/不安定の原因と影響

大気の層のイメージ図

(※画像はイメージです。文字に意味はありません)

大気が「安定している」とは、空気の層が乱れることなく静かに存在している状態を指します。

この状態は、地表近くの空気が冷たく通常冷たい空気は重く)、高度が上がるにつれて温かくなる通常、暖かい空気は軽い)温度分布によって生じます。

この時の〈暖かい〉〈冷たい〉は気温ではなく、”相当温位”という考え方を用います。
相当温位:1,000hPaに乾燥断熱変化させたときの絶対温度(温位)と空気塊の中に含まれる水蒸気がすべて凝結した際に放出される熱(顕熱)を併せた絶対温度。
⇒ 暖かく湿った空気:相当温位が高い
  冷たく乾燥した空気:相当温位が低い

このような温度の配置は、空気の上昇を抑制し、大気を安定させる要因となります。

通常、上空の空気は気圧が低いため気温が低いものですが、上空の空気塊の気圧を上げると、地上よりも暖かい空気になります。

ちなみに、飛行機では、外の空気を機内に取り入れる際、取り込んだ空気の気圧を上げ、冷却しています。
(参考サイト:https://www.ana.co.jp/group/about-us/air-circulation.html

航空機の中のイメージ

逆に、「不安定な大気」は、地表近くの空気が温かく、上空が冷たい状態を指します。

この温度分布は、地表の暖かい空気を上昇させる傾向があり、この上昇する空気は冷却されることで雲を形成します。

特に、このような不安定な状態は、積乱雲の形成や雷雨の発生に関与しています。 

擾乱のイメージ

しかし、なぜこのような温度分布が生じるのでしょうか。

それは、太陽の照射量の違いや地表の特性、そして前日までの気象状況など、多くの要因によって決まります。

例えば、都市部ではビルやアスファルトが太陽の熱を吸収しやすく、周辺よりも温かくなりやすいため、不安定な大気が形成されやすくなります。
ヒートアイランド現象と呼ばれています。 

ヒートアイランドのイメージ

上昇流と下降流のメカニズム

上昇流とは、地表近くの暖かい空気が上昇する現象を指します。

この暖かい空気は軽く、その周りの比較的冷たい空気よりも上に移動しやすい性質があります

上昇するにつれて、気圧が下がり、空気塊は膨張するため空気の密度が低くなる、その結果として冷却されます。

この冷却された空気中の水蒸気は凝結し、雲を形成する原因となります。

特に、この上昇流が強力な場合、積乱雲が形成され、雷雨や竜巻などの激しい気象現象を引き起こすことがあります。 

大気中の水蒸気が冷やされて氷になる

一方、下降流は上空の冷たい空気が重力の影響を受けて下降する現象を指します。

下降する空気は、気圧の上昇により圧縮することで暖まり、地表に近づくにつれて乾燥します。

このため、下降流が支配的な地域では、晴れた天気が続くことが多くなります。

空気塊が下降し、温まることで湿度が下がるイメージ

具体的な事例とデータ

上昇流や下降流の影響は、私たちの日常生活にも直接的に関わっています。

例えば、夏の日中に発生する局地的な雷雨は、海で蒸発した空気が流れ込む影響と地表の強い日射によって生じる上昇流の結果として形成されます。

このような雷雨は、短時間で大量の雨をもたらすことがあり、突然の豪雨による浸水や土砂災害のリスクが高まります。 

夏季雷の代表、熱雷のイメージ

また、冬の晴れた日には、下降流が支配的となることが多く、これが乾燥した空気をもたらす原因となります。

この乾燥した空気は、インフルエンザウイルスの活動を活発化させるとも言われており、健康管理にも影響を与える要因となっています。 

冬季の乾燥した街並みのイメージ

地球全体の気候システムとの関連性

地球の気候は、局所的な現象だけでなく、全球的なシステムとしての動きによっても影響を受けています。

上昇流や下降流は、この大きなシステムの中で重要な役割を果たしています。

例えば、エルニーニョ現象は、太平洋の海水温の変動によって引き起こされる気候の変動です。

この現象の発生時には、太平洋中部の海水温が上昇し、これに伴って強力な上昇流が発生します。

この上昇流によって、大量の雲が形成され、特定の地域に豪雨や乾燥をもたらすことが知られています。

エルニーニョ現象のイメージ図

一方、ラニーニャ現象はエルニーニョの反対の現象として知られ、太平洋中部の海水温が低下することで特徴づけられます。

この時には、下降流が強まり、雨雲の形成が抑えられるため、乾燥が進む地域が増えることが一般的です。

ラニーニョ現象のイメージ図

環境への影響

大気の動きは、私たちの生活環境や地球の生態系にも大きな影響を与えています。

上昇流によって形成される雲は、太陽の光を反射し、地球の温暖化を抑える役割を果たします。

これは、地球のアルベド効果として知られ、雲の量や種類によって地球の気温が変動する要因となっています。 

地球のアルベドのイメージ図

一方、下降流は、地表にCO2や他の温室効果ガスを運ぶことがあります。

特に、都市部や工業地帯では、これらのガスの排出量が多く、下降流によって地表近くに留まることが多いです。

これが都市部のヒートアイランド現象の一因となっており、夜間の気温が上昇することで、熱中症のリスクが高まるなどの健康上の問題も引き起こしています。

工業地帯の排ガスがヒートアイランド現象に結びつく図

最新の研究と未解明の点

気象学や気候学は、常に進化し続ける学問分野です。

上昇流や下降流に関する研究も、近年ではさらに進展を遂げています。

例えば、気候変動と上昇流・下降流の関係性についての研究では、地球温暖化がこれらの大気の動きにどのような影響を与えるのか、そのメカニズムが詳しく調査されています

大きいスケールでの分析が主流でしたが、近年ではフェーズドアレイレーダーなどで、一つの積乱雲を3Dで分析するなど、細かい現象の解明も進んでいます
(参考動画:フェーズドアレイレーダーレーダーの紹介

また、人工的な気象操作や地球工学の技術が進展する中、これらの大気の動きを利用した新しい技術の開発も進められています。

フェーズドアレイレーダーのイメージ図

しかし、まだ解明されていない点や疑問も多く存在します。

特に、地球の気候システムは非常に複雑であり、多くの要因が絡み合っているため、一つ一つの現象を完全に理解するのは容易ではありません

これからの研究が、これらの未解明の点を明らかにし、より正確な気候予測や気象情報の提供に役立てられることが期待されています

スプライト(宇宙側:電離層に伸びる放電現象)の図

(※画像は宇宙空間の方に進む雷のイメージ:通称スプライト)

まとめ

この記事を通じて、大気の動きとその影響、特に上昇流や下降流の重要性について詳しく探ることができました。

これらの現象は、私たちの日常生活や地球の環境、さらには未来の気候にも大きな影響を与えています。

科学の進歩とともに、これらの知識を活用し、より良い未来を築いていくことが私たちの使命となるでしょう。 

上昇流を利用した乗り物である気球のイメージ

問題 気象予報士試験 一般知識編 第5回(H7 第二回 参考問題)

次に文章で、空欄 ⒜~⒟を埋める語句の組み合わせ①~⑤のうち、正しいもの一つ選べ。

熱帯海洋の、ある領域で表面温度が高くなると、海洋表面からのの輸送が増え、大気の不安定度が増して大気中のが活発になる。に伴い、が放出され、その海域上の空気が暖められる。その結果生ずる大気の運動の変化は、局所的にとどまらず、ロスビー波を励起して中・高緯度にも伝わり、これらの緯度の天候にも影響を及ぼすことがある。一般に、ある場所で起こった変化が遠隔地に伝達される現象を気象学ではと呼んでいる。


⒜顕熱 ⒝潜熱 ⒞対流活動 ⒟移流

⒜水蒸気 ⒝顕熱 ⒞前線活動 ⒟拡散

⒜潜熱 ⒝顕熱 ⒞対流活動 ⒟移流

⒜顕熱 ⒝潜熱 ⒞前線活動 ⒟テレコネクション

⒜潜熱 ⒝顕熱 ⒞対流活動 ⒟テレコネクション





解答:⑤
熱帯海洋で活発なのは対流活動で、潜熱によって大気が暖められています。ある場所で起こった変化が遠隔地に伝達される現象をテレコネクションといいます。
大気と海洋は互いに影響しあっており、海は熱容量が大きく大気に比べてその変化がゆっくりであるため、海は大気に大きな影響を与えます。
大気と海洋は運動量、熱エネルギー、水蒸気量を相互に交換しています。この関係の代表的な例がエルニーニョ現象やラニーニャ現象です。

気象予報士試験HP 参照
参考文献
エルニーニョ/ラニーニャ現象とは:気象庁HP

トリビア 歴史に名を刻む現象
エルニーニョはスペイン語で「幼子」を意味し、キリストの誕生を祝うクリスマス時期にこの現象がよく発生することから、その名が付けられました。

クリスマスにちなんで名付けられた気象現象、なんともロマンティックですね。

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